<Medical Dynamic Stretchingの実際⑨足関節と趾>

■予防と治療を兼ねるMDS
Medical Dynamic Stretchingを治療に用い始めて7年余り。子供の骨端症、アスリートのスポーツ障害、成人の変形性関節症と、年齢を問わず、また、疲労性、廃用性の別なく、それらの治療においてMDSには明確な効果を認めることができた。この事実が、とりもなおさず整形外科の慢性疾患は、おしなべて筋肉の慢性弛緩不全に由来するという証だろう。
さらにいえば、MDSは治療に有効であるだけでなく、怪我の予防法としても有用であると考えられた。
例えば、アキレス腱断裂には腓腹筋とヒラメ筋の弛緩不全が先行しており、それらの弛緩不全をMDSでコントロールできていれば、防ぎ得る怪我だというわけである。また、膝前十字靭帯損傷なら、腸腰筋や大腿、及び下腿筋群の弛緩不全がメンテナンスできてさえいれば、これまた防ぎ得る怪我だと考えられた。

■怪我の原因は不運にあらず
経験上、外来でよく診る足関節捻挫の類もまた、患者の不運によって起こっているのではなく、下腿筋群の弛緩不全が誘因となって受傷している印象がぬぐえない。弛緩不全の故、瞬時に適切な回避行動をとることが難しくなっているのではないだろうか。実際、足関節外側靭帯を損傷する子供は、手術による加療を行ったとしても同様の怪我を繰り返すので、手術自体に意味を見出せない場合がある。
こうした怪我に対し、MDSによる予防効果を統計学的に証明するのは難しいが、ここでは、下腿部において患うことの多い怪我や骨端症、慢性疾患の類の治療に効果を認めた足関節と足趾におけるMDSの実際を詳述する。

■他動的に行うMDS
治療家によって他動的に施術する場合、術者の右側に患者の両足が向くよう患者を仰臥位で寝かせ、患者の足関節直下に小枕を敷く。この状態で患者には脱力を促しつつ、術者は左手で患者の下腿部にある筋肉群のこわばりを確認しながら、右手で患者の足のMTP関節をつまんで小刻みに繰り返し足関節を底背屈させる。リズムは3ヘルツ程度。可動域を目いっぱい使うのではなく、半分程度の可動域で行うだけで良い。
100回も行えば下腿筋群は弛緩するので、腓骨筋腱炎、舟状骨の後脛骨筋腱付着部炎、有痛性外脛骨症、足背の前脛骨筋付着部炎、アキレス腱炎、及び踵骨のアキレス腱付着部炎などに奏功する上、ギプスによる足関節の外固定後のリハビリとしても有用だ。次に、左手で患者の足を把持し、右手で患者の足趾をひっかけるように底背屈させる運動を繰り返し100回程度行うと、足底の筋肉群をも弛緩させることができる。これを先の運動とあわせて行うと、セーバー病や足底腱膜炎、フライバーグ病などにも有効だ。リズムは同じく3ヘルツ程度が望ましい。
実際、筋組織内脱水を認めない患者にこれらを施術した場合、その効果があまりに絶大であるため、「まるで魔法のようだ」という感想を頂戴することもしばしばだ。

■独力で行うMDS
一方、患者が独力でMDSを行う場合、両足底を床につけた状態で椅子に腰かけ、膝関節90度屈曲位から少し足を前に出した位置で、踵を支点にしてつま先を二センチ程度小刻みに上下させる。底屈時には、つま先が床につくよう脱力する必要がある。リズムは3ヘルツ以上。連続して行うと、前脛骨筋が硬化してくるので、そうなる前に踵の位置を膝関節屈曲90度に戻し、この位置でつま先を支点にして踵を2センチ程度小刻みに上下させる。これも必ず踵が床につくよう脱力して行うのがポイントだ。どちらも貧乏ゆすりの要領で脱力を意識しながら、互いを数十回ずつ交互に繰り返し行う。前者は下腿屈筋群を弛緩させ、後者は前脛骨筋を弛緩させる。
次に、椅子に腰かけた姿勢のまま膝を伸展し、踵を床につけて足趾を連続して底背屈させると、足底の筋肉群を弛緩させることができる。この運動に加え、足趾を内外転させる運動を行うと、中足骨と中足骨の間にある骨間筋を弛緩させられるので、モートン病にも有効だ。足趾の底背屈と内外転も十回ずつセットで行うと良い。内外転は自動運動が困難な場合、自分の手指を用いて他動的に行っても良い。
この方法は、進行性の外反母趾にも効果があったが、行った回数に効果が比例するので、一日に数百回以上、行う必要がある。

■神経伝達機能の活性化
上記に加え、足関節を支点にしてつま先を時計回り、反時計回りに回転する自動運動を十回ずつ交互に行うと、下腿筋群の神経伝達機能の改善につながり、筋肉の協調運動が滑らかになって、足関節捻挫の予防につながる。ただし、慣れない間は力が入って弛緩不全を生じてしまう場合もあるので、最初は少ない回数で始めた方が良い。筆者は足関節外側靭帯損傷後、靭帯の癒合を得た患者については、受傷後6週から、徐々にこの運動を加えるよう勧めている。そもそも、子供たちにこの運動をさせると、動きがぎこちなくなってしまうケースが多い。つまり、子供たちは神経伝達機能の発達が未熟であるため、下腿に弛緩不全を生じやすいのである。
実際、これらのテクニックを空手道場の師範に伝授したところ、道場の子供たちの足のトラブルが激減したという報告を受けた。筆者自身は、学生時代の足関節捻挫後から続く運動時のテーピング生活を、これらのMDSによって卒業できたという次第だ。

■課題
MDSを行うようになってからの症例は5千を超えた。この間、期待された割に結果が今一つというケースもわずかながら存在したが、顎関節症を含め、理論上、効果の予想された、ありとあらゆる整形外科疾患で概ねMDSは有効だった。
また、MDSは交通外傷後の治療にも有用で、ムチウチと呼ばれる頚椎捻挫の類は頚椎周囲の筋肉に弛緩不全を生じていることが難治化の要因になると考えられた(交通外傷の患者の場合、MDSを指導しても、まじめに取り組まない患者が多かったのだが)。
当然、交通外傷に限らず、他の外傷や術後においても、リハビリの一環としてMDSは有効だったが、高齢者では患者本人がMDSの正しい方法を会得するのに困難が伴うだけでなく、会得できたとしても、短期間で違うことをし始めるので、頻回の通院指導が必要だった。
とはいえ、この方法が広く世間に知られるようになれば、アスリートの多くが選手寿命を延ばせるであろうし、整形外科手術のご厄介にならずに済む患者が増え、将来の医療費削減につながるに違いない。
もっとも、そのためには今日の整形外科学が、自らの過ちに気づく必要があるだろう。
せっかくMDSによって治りかけていたにもかかわらず、テレビの健康番組の影響で筋力強化を行い、症状を増悪させる症例が後を絶たないからだ。

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